「………月城。知り合いだからといって何も言わずに動画をアップしたな」
「………俺はこれでいきたいんで」
「おまえな………それで舞姫が困ったら意味ないだろ。漣さん、申し訳ない。こいつが勝手にやったことなんだろうね」
関は千絃の性格をよく知っているようで、苦笑いを浮かべながら謝罪をした。隣に座る千絃はまた不機嫌そうに顔をしかめている。
「ただ、私も月城と同じで君の舞姫を見てみたいんだ。剣道の試合も拝見したが、あなたの動きでゲームを作ればとてもリアルなものができると確信しているんですよ。だから、ぜひお願いしたい」
「…………ですが………」
「それでは、あなたが舞った剣舞だけでもいいです。それだけを採用させてください。もちろん、出演料は払います。その出来をみて、今後のモーションキャプターを考えてみてはくれませんか?私はあなたの動きをぜひゲームでも再現したいのです。それで剣の道を知る人も増えると、私は思っています」
関の熱い台詞が伝わってくる。
こんなにも誠心誠意言われては、断れるはずもなかった。響もキャラクターが自分の舞を踊ってくれるのを見てみたいと言う気持ちはあるのだ。断る理由が、千絃との昔のいざこざ、というのは仕事を断る理由にならないだろう。こんなにも熱心に勧誘してくれるのだから、断るとしても心が痛む。
それに、あの剣舞だけならばいいのではないか。そう思い、決心した。
「わかりました。では、剣舞だけでよかったら、ぜひお願いします」
これが響が剣道以外の新しい道に1歩を踏み出した瞬間だった。