昨日と同じフロアに着くと、沢山の人が働いていた。皆がパソコンに向かって真剣に作業している。
 けれど、千絃の隣を歩く響を見ると「あ、舞姫だ!」「本物だー」と、手を止めて好奇な目で見ていた。やはり皆があの動画をみているのだ。しかも、皆が勤めている会社が配信したのだから、余計に気になるのだろう。
 響は気にしないようにしながらも、誰とも目を合わせずに、千絃の横を静かに歩いた。


 案内されたのは、とある会議室のような広い部屋だった。長いテーブルが何台か置いてあり、その中央に、一人の男性が座っていた。響を見るとにこにこと笑顔を見せ「初めまして。来ていただきありがとうございました」と挨拶をしてくれた。どうやら千絃の上司のようだった。


 「この度はわが社のゲーム開発の、お手伝いをしていただけるということで、とても感謝しております。動画を拝見し、月城から話を聞いたときは驚きましたが、舞姫にピッタリでしたので、本当に嬉しいです。」


 関(せき)という名の上司は歓迎の言葉を口にし、すぐにでも契約の話をしようとしていた。とても嬉しそうにしている所、申し訳なかったが、響は言葉を遮って、話しをすることにした。


 「あ、あの………。喜んでいただけて光栄なのですが、私はまだ仕事をすると決めたわけではなく。今日は、あの動画を削除していただきたくて、ここに来ました。ご期待に添えなく、申し訳ございません」


 響がそう言うと、関は驚いた後に、隣に座る千絃を見た。