響と千絃の間にあるドリンクホルダーに、昨日と同じジャスミンティーのペットボトルと、彼の好きなブラックコーヒーの缶が置かれていたのだ。
 またわざわざ準備してくれたのだ。そう思うと心がくすぐったくなる。学生の頃から彼は大人のようにブラックコーヒーを飲んでいたな、と思い出しては懐かしさから笑みが浮かんでくる。


 「ねぇ、千絃。………また、ジャスミンティー貰ってもいい?」
 「………おまえのために買ったんだ。飲んで構わない」
 「ありがとう。………今度、千絃がいつも飲んでるコーヒーも飲んでみたいな」
 

 そんな言葉が自然にこぼれた。
 自分では飲まない苦いブラックコーヒー。
 けれど、彼がずっと好きならば飲んでみたくなったのだ。
 すると、千絃は少し驚いた表情になったけれど、まっすぐ前を向いたまま少しだけ表情が柔らかくなるのがわかった。そして、ちらりとこちらを見た後「わかった。今度はコーヒーな」と、笑ったのだ。

 そんな彼を見て、響は「うん」と返事をする。
 社内の雰囲気は先程より柔らかく、心地がいいものになった事が嬉しく、響は喜んでジャスミンティーの蓋を開けたのだった。