「おはよう。……また、随分怖い顔をしているね」
 「和歌さん。おはようございます」


 和服姿の和歌が、ほうきを持って玄関の掃除をしていた。管理人として朝は必ず掃除をしているらしいが、いつも眠そうな顔をしている。


 「和歌さんは、変わらずに眠そうな顔ですね」
 「昨日も執筆を遅くまでしてしまってね。……漣さんは今度はどうしたの?」
 「………久しぶりに会った幼馴染みといろいろあって…………」
 「この間もその幼馴染みが原因かな?」
 「………そうですね」
 「そうか。なるほどねー。幼馴染みって、男だろう?」
 「えぇ。そうですが………」
 「なるほどなるほど」



 そういって和歌は楽しそうに響を見ている。何か良からぬ勘違いをしているな、と思い響は彼に否定の声を上げようとした。
 が、草履でゆっくりと近づいてきた和歌は響の頭を優しく撫で始めたのだ。彼は響より少し背が高いのは知っていた。それに綺麗な手をしているのもわかっていたけれど、それが男らしい大きなものだと初めて知り、思わずドキッとしてしまう。彼は響より年上だから、妹を心配するような気持ちなのかもしれない。けれど、初めて和歌に触れられて、響は何も言えずに彼を見つめるしか出来なかった。


 「大丈夫。今日も僕に会ったからいい日になった、だろう?」
 「………そう、ですね」


 優しく微笑む和歌には大人の男の余裕を感じられた。その心地よさは兄のような雰囲気があるからかな、と響は思って微笑む。
 すると、道路の方からバンッと強く車のドアが閉まる音がした。ハッとそちらを見ると、不機嫌そうな千絃がこちらをジッと見ていた。


 「千絃………」