1話「新緑の下での再会」
漣響は強くない。
全くもって強くないのだ。
今でもこうして、鏡を見て泣きそうになりながらため息をついている。ただ泣いてはいないので、少しは強いのかもしれない。
まだ日が上ったばかりの爽やかな時間。
まだ寒さも残る春暁の時間。聞こえてくるのは風や鳥のさえずりだけ。響がホッと出来る1番の時間だった。
真っ黒な髪を頭の高い位置で1つに結ぶ。長い髪はそれでも肩まで届くほどだった。鏡を見て、「よし!」と気合いを入れる。
目の前の彼女の顔はどうも府抜けている。
目標を失ったからといって、止める事は出来ないのだ。
剣を握る事を。
響はひんやりとする剣道場の床を裸足でゆっくりと歩く。誰もいない広い道場に正座し正面にある神棚にゆっくりと頭を下げる。
左に置いてある竹刀を取り、響は摺り足で中央まで行き、ゆっくりと竹刀を抜刀する仕草で両手に持ち構える。