舞台が終わり、日常が戻ってきた頃、千秋楽後にインタビューを受けた記事が雑誌に掲載され、斉賀が驚いて聞いてきたのだった。
それは、響が舞台の仕事を今後受けないと決めた事だった。
舞台の仕事は新鮮で、たくさんの学びがあった。自分の知らない世界にも剣を使う仕事がある事を、舞台がとても素晴らしい芸術だと知ることが出来たのは、響にとっては大きな収穫だった。
けれど、自分がそれをやりたいのか。
自分の気持ちを整理すると、少し違うように感じたのだ。
ゲームの仕事は楽しかった。やり取りや技の研究、性格から攻撃の癖を考えたりと、様々な戦い方を知れるのが楽しかった。
それに、響はやはり剣道が好きだったのだ。離れて見てから大切さがわかる。それを身をもって実感したのだ。
「この仕事はどんな形でも続けたいと思ってるです。沢山ある仕事ではない事はわかっているけど、モーションキャプチャーで剣士といえば漣響だ、って言って貰えるように」
「……そうですか。響さんならなれますよ!大丈夫っ!」
「ありがとうございます。それまで、道場で働こうと思います。そこで技を磨きます」
もう試合に出たり、打ち合いをする事は難しいかもしれない。
けれど、今まで学んだ事や知識は次に剣道を好きになってくれる人に教えられる。そう思えるようになった。
私も剣道を続けたかった。どうして、私だけがやめなきゃいけないのか。ずるい。悔しい。そんな気持ちがあったからこそ、道場の仕事を引き受けて、楽しそうに稽古を受ける人を間近で見たくなどない。そういう負の感情があった。
けれど、次の目標が見つかった途端にそんな気持ちはゆっくりと消えていった。
モーションキャプチャーという仕事に出会わせてくれた彼には感謝しなければいけない。
ずっと昔から、響の未来を見据えて、居場所を作って迎えに来てくれた、最高の幼馴染みであり恋人。
もう、彼の隣から離れられない。いや、離れたくない。そう思うのだった。