「悪かった………俺が意固地になりすぎた。今日の舞台、最高によかったよ。すごくかっこよくて綺麗だった」
 「………私、頑張ったよ……緊張したし、不安だったけど………そんなの頑張れた。けど………寂しいのは我慢出来なかった。千絃と会いたかったんだから………」
 「俺もだ………。響、泣くなよ。俺は昔からお前の涙に弱いんだ。どうしていいのかわからなくなる」
 

 そういうと、響は親指で響の目元に溢れる涙を拭った。響と千絃の視線が合う。それがキスの合図だと感じ、響は久しぶりの感覚に恥ずかしさとくすぐったさを感じる。
 けれど、1度彼とキスをしてしまったら止まらなくなってしまうのだ。
 響は短いキスを数回した後に、自ら彼の方へと近づき、唇を近づけた。もっとキスして欲しい。千絃の唇の感触を確かめたい。今抱きしめて、キスをしているのは千絃なのだと深くに感じたかった。
 響の欲求が伝わったのか、千絃のキスは深いものにかわり、響の口の中に彼の舌がぬるりと入り込んでくる。ゾクッと背中が震えるけれど、それは喜びからなと響はわかっていた。
 2人の水音が静かな車内に響く。
 もっと……もっと欲しい………。そう思って響が千絃の体にしがみついた。

 が、その瞬間近くに車が近づいてきたのか、ライトがこちらを照らしたのに気づき、響は咄嗟に唇を離した。


 「ご、ごめんなさい………こんな所で……私………」


 羞恥心で響は顔を赤くしたまま助手席に座り直し、俯いたまま謝罪する。
 すると、千絃が優しく微笑んだように感じ、ゆっくりと彼を見ると、千絃は響の頭を優しく撫でた。