「確かに私は今千絃とは会えていません。けれど、まだ恋人でいたいのです。私の中での好きな人はずっと変わらないんです」
 「そうですか………漣さんは、本当に彼が大好きなのですね」
 「そうみたいです……ね。幼馴染みを好きになるなんて思いもしませんでした」

 響はにっこりと笑うと、和歌はハッとした顔をした。

 「和歌さん……?」
 「漣さんはそうやって笑うのですね。………彼は羨ましいです。そうだ、1つだけお願いしてもいいですか?」
 「はい………?どんな事ですか?」
 「漣さんではなく、響さんと呼んでもいいですか?少しだけ特別になれた、あなたを好きだったと覚えていけられるように」
 「えぇ……呼んでもらえると私も嬉しいです」
 「よかった。では、響さん……これからもファンとして、そして同じマンションの住人として仲良くしてくださいね」
 「はい………。和歌さん、ありがとうございます」


 和歌は立ち上がり、響に向けて手を差しのべてくれる。
 響は彼の手に自分の手を乗せると、響の体がふわりと浮いたように軽くなる。そのまま響の体を引き寄せ、和歌は優しく抱きしめた。ウッド系の香りがふわりと香る。和歌の香りだ。和歌は響を抱きしめたまま「もう1つのお願いです。最後にこうさせてくださいね」と言われたので、響はずるいなと思いながら微笑みながら頷いた。