「………もうこんなことやめてください。私、どうしていいのかわからなくなります」
 「私と付き合えばいいのではないですか?」
 「そんな………」
 「私はあなたを寂しがらせる事はないです。あなたは強く凛としている方が魅力的だ。そんなあなたに戻って欲しいのですよ」
 「…………」


 優しく、また、愛の言葉を囁く。
 彼はきっと自分を見ていてくれて、そして愛していてくれたのだろう。このマンションはとても居心地がいいのは和歌が居たからだろうと思った。朝、彼は眠たそうな顔で「おはようございます」と挨拶をしてくれる。稽古が終わったあとは「お疲れ様でした」と労ってくれるし、試合に勝てば「おめでとうございます。さすがですね」と、褒めてくれる。負けて帰れば「無理しないでくださいね。今日は悲しんで反省だけして、また明日から頑張ればいいのではないですか?」と、無茶な稽古を止めてくれたりもした。
 そんな和歌に支えられた部分もおおきかったと響もわかっていた。

 けれど、モヤモヤした気持ちになる。
 その原因がようやくわかったのだ。


 「和歌さん………私は強くないんです」
 「え………」


 自分で驚くぐらいに弱々しい声が出た。
 自分の弱い部分を見せるのはやはり勇気がいるものなのだなと思った。
 響の瞳をまっすぐ見るように彼は視線を合わせてくれる。響は座り込んだまま、ギュッと着物の袖を握りしめた。