クスクスと笑い、和歌は両手で抹茶を飲んだ。彼は抹茶とほうじ茶のシフォンケーキを頼んでいた。「ここはケーキもおいしいのですよ」と、和歌は絶賛していたのだ。
そして、一息入れたところで、和歌は再び口を開いた。
「では、仕事の話はおしまいです。漣さんに1つお聞きしたかったのですが………恋人とはお別れになったのですか?」
「………え………」
突然、千絃の話になり響は驚いて持ってたスプーンを落としそうになった。
そして、響と千絃の関係が上手くいっていない事に気づいていたのだ。
今1番響が心配している事を言い当てられてしまい、響はすぐに顔色が変わってしまう。「そんなことないですよ」と言ったとしても、説得力はない表情だっただろう。
「少し前まで仕事の送り迎えもしてもらっていたのを何回か目撃していましたが、最近は見ていなかったですし、彼の姿も拝見していなかったので……。あぁ、ずっと見ていたわけじゃないですよ。管理人として玄関先に居る事が多いので、少しでも変化があると気づいてしまうもので…………すみません。気になってしまって」
「いえ………大丈夫です」
和歌はアパートの玄関の掃除や中庭の手入れなどで敷地内に居る事が多いのだ。住人の様子を知ってしまうのは、当たり前だろう。
それに彼といざこざがあってから、響の生活は変わってしまったのだ。和歌が気づくのも仕方がない事なのだ。
けれど、第三者に2人の事を問われてしまうと、どうしても胸が苦しくなってしまうものだ。
「……すみません。聞くべき話ではなかったですね。申し訳ないです」
「いえ………」
響の言葉が止まってしまい、戸惑っているのがわかったのだろう。和歌はそれ以上追求する事はなかった。
けれど、響の鼓動は早くなり、和歌と目が合わせられなくなった。
先ほどまで美味しいと思っていた甘味は、もう全く味がわからなくなってしまっていたのだった。