「和歌さん、このお着物……買っていただくわけには………」
 「いいんですよ。袴姿ではなく着物に身を包んだあなたが見てみたかっただけなのですよ。なので、私の我が儘なのです。それに……仕事の話もありますし」
 「仕事、ですか?」
 「えぇ。その事については美味しいものを食べながらしましょう」
 「………はい」



 気づくと、和歌に買って貰ってしまったという話は流れてしまっている。彼はとても女性なれしているなと感じた。
 けれど、ここで終わりにすることなど出来ず、話を戻すのは申し訳ないが響はまた口を開いた。


 「和歌さん、素敵なお着物ありがとうございます。……浴衣以外の和装だなんて、剣道着か成人式でしか着た事がないので……。とても嬉しいです。大切にさせていただきますね」
 「こちらこそ、サプライズがしたかったとは言えど、何も言わずに無理矢理させてしまって申し訳なかった。………けれど、やはり漣さんは素敵ですね」
 「え…………?」


 和歌の手がこちらに伸びて来て、中庭の花を愛でるように響の髪を優しく触れた。


 「男は単純な生き物なんです。好きな人に贈り物をしたい。そして、その人に喜んでもらえればとても嬉しいものなのですよ。こちらこそ、ありがとう、と言いたいぐらいにね」


 響が着物を素直に受け取ってくれたのが嬉しかったのだろうか。そう言って、和歌は目を細めて優しく微笑んだ。


 「さて、デートの続きをしましょうか」
 「……仕事の買い出しです」
 「そうでしたね。では休憩をしましょう」


 和歌は楽しそうに笑うと、ゆっくりと歩き始めた。着物姿の2人は肩を並べて歩く。草履まで準備してくれた和歌だったが、響が慣れていないのをわかってか歩みを遅くしてくれる。
 そんな2人を街の人達は、珍しいものを見るように視線を向けてくる。けれど、どれもにこやかで、微笑みかけるようなものばかりだった。
 その視線を感じながら、自分と和歌はどのような関係で見られているのだろうかと響は考えてしまう。きっと、恋人同士に見られているのではないかと思うと、妙にそわそわしてしまう。
 けれど、他人の目は気にしないと決め、響は仕事の事について集中した。先程和歌が話していたその着物についても気になる。カフェについたら、すぐに聞こう、響はそう考えた。