「悪い。少し遅れた」
 「………大丈夫よ」


 気恥ずかしさを覚え、視線を外すと彼からクククッと笑い声が聞こえたような気がして、さらに頬が赤くなる。
 けれど、仕事の紹介のため、と思い何も言わずにグッと堪えた。


 「じゃあ、行くか」
 「う、うん」


 彼の声を聞き、響はベンチから立ち上がり彼の隣に駆けていくと、ちらりとこちらを見てから歩き出した。響もちらりと彼を見る。白シャツは上の2つまで開け、細身の黒いズボンを履いてた。袖を捲り、そこからは黒の腕時計とシルバーのハングルが見えている。シンプルな格好なのに、彼に似合っているからかモデルのようだった。そう言えば学生の頃もかなりモテていたな、と響は思い出した。


 「助手席乗って」
 「え、あ、うん………」


 すぐ近くの駐車場に彼の車を停めていたようで、気づくと白い車の前まで来ていた。車の種類は全くわからないけれど、誰でも知っている高級車がそこにはあった。
 助手席に乗ると、濃い茶色の革シートと黒を基調とした車内になっており、男性らしさを感じるものになっていた。響がシートベルトをしたのを確認すると、千絃は置いてあったペットボトルを響に差し出してきた。ジャズミンティーだ。
 響はそれを思わずボーッと見つめてしまう。そして、「懐かしいな」と感じてしまった。いつまでも受け取らない響を見て、千絃は怪訝な顔をした。


 「これ、おまえ好きだっただろ。もう嫌いになったのかよ」
 「え………ううん。好きだよ。………ありがとう」
 「………ん」