「かっこいい人ですね……誰でしょう?」


 斉賀が小声でそう言ったのがわかったが、響はそれに反応する事が出来なかった。
 周りの人達とは違った理由だが、響もその男性を見て驚いてしまったのだ。


 「和歌さんっ!?」
 「やぁ、漣さん」


 そこに居たのは響の管理人である和歌だったのだ。彼はニッコリと微笑んで、和服の袖をヒラヒラとなびかせながら、小さく手を振っていた。


 「響さんの知り合いだったんですか?!」
 「そうなんです。挨拶してきます」


 斉賀や他のスタッフに声を掛けた後、響は関と和歌の元へと向かった。

 
 「和歌さん、こんにちは。どうしてこちらに?」
 「漣さんと和歌さんは知り合いでしたか。漣さん、朝に話したあなたのお客様と言うのが和歌さんなんだ」
 「え………和歌さんが?」


 響はその理由を聞いても、和歌がわざわざこの会社に来て会いに来る意味がわからなかった。話があるぐらいならば、あのマンションで話せばいいはずなのだ。と、いうことはきっと仕事の話だろうと、響は思った。けれど、和歌は作家だ。ゲームとはほとんど関係ないように思えて首を傾げた。
 すると、響の反応が嬉しかったのか、和歌はとても楽しそうに微笑んだ。


 「漣さんのモーションキャプチャーを先ほど見せて貰っていたんだ。素振りをする姿を綺麗だけれど、やはり実際に刀を持って戦う姿は素晴らしいね。とても感激したよ」
 「…………そんな。私はまだ始めたばかりの新人なので……」
 「けれど、剣の道ではプロだったのだろう?剣道の基礎と、そこから自由に舞いながら剣を振るう姿は本当に華麗だよ。動画で剣舞を見た時と同じように、いやそれ以上に感動したんだ」
 「………褒めすぎですよ。和歌さん」


 和歌の口からは次から次へと賛辞の言葉が出てくるので、響もさすがに気恥ずかしくなってしまう。けれど、こうやって感想を言ってもらえるのは嬉しい事だった。
 響は、「ありがとうございます」と素直に感謝の言葉を口にした。


 「そこで、今日は漣さんにお願いしたい事があって、ここに来たんだ」
 「お願い、ですか?」
 「そう。今度僕が台本を書いた舞台で斬陣を披露して欲しいんだ」


 和歌の突然の依頼に、響はポカンとし、しばらくの間固まってしまったのだった。