「何かいい事あった?」
「え………」
「明るい雰囲気を感じたんだけど」
彼は妙に勘が鋭い事が多い。けれど、今回は外れだ。響は「はずれです」と返事をした。
「むしろ、イヤな事がありました」
「あら、外れてしまったか。でも、今日は僕に、会えたんだ。いい日なっただろう」
「………そうですね」
自信たっぷりの言葉に、響はわざと感情のないのまま返事をした。
「新しい仕事はゆっくり決めるといいよ。家賃なんて払わなければいいんだ」
「管理人さんがそんな事を言ってはダメですよ」
そう。彼は小説家兼このアパートの管理人だもあった。けれど、かなりいい加減なようで、家賃を滞納しても起こらずに「しょうがないね。今月はだけだよ」と言ってただにしてくれる時があるようだ。もちろん、響はしっかりも払っていたが、隣の学生さんはよく助けてもらっているようだった。
そんな不思議が多い和歌は、にっこりと笑い響を見た。
「僕は君の剣のファンだからね。また、何か違った形で見たいものだ。まぁ、こうやって近くで一人占め出来るから今は幸せだけれどね」
「竹刀を振っているのを見て喜ぶのは和歌さんぐらいですよ」
「焦らずゆっくり決めるといい」
そう言うと、和歌は満足したのか古い窓をギギギッと閉めた。閉め終わる直前に彼は小さく手を振ったので、響も小さく頭を下げる。
「ゆっくり決めたいのだけれど………彼はせっかちなのよね」
昨日の強引に勧誘してきたら千絃を思い出して、響はまた大きくため息をついた。