「ねぇ、千絃はあのローズのボディソープ使ってるの?」
千絃の車に乗り、自宅まで帰宅する車内で、響は気になっていたことを訪ねた。
彼の準備してくれた薔薇の香りのボディソープ。響はそれをとても気に入っていた。自分でも買おうかと思うほどだ。とても華やかで、本物の薔薇のような香り。今でも香ってくるような気さえするのだ。
けれど、彼からは香りはしてこない。
不思議に思っていると、千絃は「俺は使ってない」と、ぶっきらぼうに言った。
「………そうなの?」
「おまえが好きそうだから買った。俺のうちに呼ぶつもりだったし」
「………そう、なんだ………」
彼はまっすぐ前を向いて運転している。
だから、きっとこの浮わついた表情を見られることはないはずだ。
自分のために千絃が準備をしてくれたのだ。あの無表情の彼がこの女性もののボディソープを買っているところを想像してしまう。すると、また笑みがこぼれた。
「おまえ……笑ってるだろ」
「ふふふ……そんな事ないよ。私も気に入ったから欲しいなって思って。どこで売ってたの?」
「買っといてやる」
「………ありがとう」
彼が照れているのはわかっている。
けれど、そんな事を言ってしまっては彼が嫌がるだろう。響は、心の中で彼の優しさを感じながら、また微笑んだ。
きっと、このボディソープはしばらくの間……いや、ずっと変える事はないだろう。そんな気がしていた。
今から家に帰って、準備をしたら仕事に行かなければならない。彼と離れるのも憂鬱だし、仕事だって本当ならばいかずにぐだぐだしていたい。
けれど、職場に行けばまた彼に会える。
それが今は何よりも嬉しくて、励みになっているのだった。