「千絃……そろそろ起きて。私、朝ごはん作ってきてもいい?」
「………ん……まだ、いいだろ……少し寝てろ」
「でも、1回家に帰りたいから、ね?もし眠かったら私だけ先に出るよ」
「今日はそのまま出社すればいいだろ……」
「でも………」
「…………これ以上言うと、噛みつく……」
千絃はまだ眠いのか、それとも冗談で言っているのかわからないが、そんな事を言って響を強く抱きしめた後にまた瞼を閉じてしまう。
そうだ。前回は機嫌のよく起きてくれたけれど、昔から千絃は寝起きは最悪だったのだ。
響きは苦笑しながら、寝ている千絃を見つめた後、「どうぞ」と冗談で返事をしながら、ベッドから起き上がろうとした。昨夜は倒れるように寝てしまったため、今は裸になってしまっている。彼に明るい所で見られるのも恥ずかしいので、チャンスだと思った。
が、それは敵わなかった。
「………いっ………千絃っ!?」
「噛んでもいいって言っただろ?」
「そ、それで本当に噛む人いないでしょー?!しかも、首筋になんてっ!」
彼は響の思いもよらない事をする天才なのかもしれない。無防備になった響を再び抱き寄せて、なんと首筋に噛みついたのだ。
響は驚き悲鳴を上げた。軽い痛みとぬるりとした感触は、恐怖感よりも背徳的な気持ちにさせられる。響は睨みながら後ろを向くと、千絃はニヤニヤとした笑みで響を見た。
「おはよう」
「………もう絶対に噛まないで」
「跡にはなってないだろ?戯れだ」
「痛いのは嫌っ!」
「はいはい。わかった」
そう言うと、千絃は立ち上がった後体を屈めて響にキスをした。おはようのキスなどするのだなと、響は意外に思いつつもそれが嬉しくてニヤける口元を我慢するのに必死だった。
「シャワー浴びてくだろ?俺は夜に起きて浴びたから」
「ありがとう」
彼も眠たそうにしていたのに夜中に起きてくれたのは、こうなる事を予想していたからだろう。
響は彼の気持ちに感謝しながら、浴室へと向かったのだった。