「今日はどうしたの?怖い顔をして」
 「っっ!!和歌さん………びっくりした……」


 響に声を掛けたのは、部屋の窓を開けて腕を窓辺に置き頬杖をついていた和歌だった。響より年上で長い黒髪はぼさついており、何か紐で縛っている。趣味なのか和装を身に付けており、それが妙に似合う男性だった。和歌という名前だが、彼は男。和歌は小説家であり、「偽名だよ」と笑って教えてくれた。


 驚きすぎて、竹刀を落としそうになった響は彼に向かって「急に声を掛けないで下さい!」と抗議の声を上げるが、彼は「ごめんごめん」と笑って謝るだけだった。


 「剣道の選手、引退したんだろう?なんで、また竹刀振って鍛えてるの?」
 「……体を動かしていないと、変な気分になるので」
 「へー。僕は体動かした方がへとへとになって気持ち悪くなるけどね」
 「和歌さんは運動不足すぎるんですよ」



 響が苦笑しながら言うと「運動は嫌いなんだよ」と、顔をしかめながら和歌は言った。
 その後、響の顔をジッと見つめてきたので、響はドキッとしてしまう。和歌の顔は少し色が白すぎる所があるが、それ以外は整ったもので、長い睫毛や形の綺麗な唇はとても大人っぽさがあるものだった。そんな和歌に見つめられると、緊張してしまう。
 響は彼に気づかれないように平然を装いながら、「和歌さん?」と声を掛ける。
 すると、彼が一言、言葉を発した。