「余計なこと教えるな」
 「はーい!じゃあ、私は作業に戻りますので。月城さんは響さんは休憩しててくださいねー」


 斉賀さんはニヤニヤと笑いながら席を立ち、足早に去ってしまう。
 こんな状況で置き去りにして欲しくなかったけれど、千絃は何も言わずに斉賀が座っていた椅子に座ってしまったので、響は逃げることが出来なくなった。


 「…………で、俺に聞きたいことは?」
 「特に………やっぱりモテてたんだなーと思っただけだよ」
 「おまえだってそうだろ。昔、俳優と話題になってただろ?」
 「あれは一緒に食事に行った時に撮られただけで何もなかったよ?というか、もう何年も前の事じゃない」


 響は昔、週刊紙に話題の俳優とのデートが報じられてしまい、一時期大変な思いをしたのだ。たまたま、ニュースの司会で響の練習に取材をしに来たことがある人で、数人と食事をしたのだ。帰り道に2人が同じ方向だからと一緒にタクシーに乗ったところを撮られてしまったのだ。お互いに「違う」と説明したので、何とかなったけど、それも数年前の話だ。そんな事を千絃が話題に出してきたのに響は驚いた。


 「………傷の抜糸っていつだ?」


 急に話題を変えられて、響はきょとんとしながら、その質問に答える。


 「明日よ。仕事休みの日に予約したから」
 「そうか。………なら明日は俺のうちな」


 千絃は立ち上がりながら、さりげなく響の耳に顔を寄せて、そう呟いた。


 「風呂の約束。忘れるなよ」
 「…………ぇ…………」


 響はすぐ彼の言葉の意味がわかり、耳を赤くしてしまった。
 そんな響の様子を見て満足したのか、千絃はさっさと仕事に戻ってしまう。
 
 

 『響を貰う時に、俺が響を綺麗に洗ってやる』


 その台詞を頭の中で思い出し、響はしばらくの間、真っ赤になった顔を他のスタッフから隠しながら休憩をとったのだった。