プロローグ



 小さな背中が2つ並んでいる。
 2人は背中に竹刀袋を担いでおり、仲良く手を繋いで歩いていた。
 ポニーテールの髪の少女が小さな肩を揺らしながら泣いている。隣の少年は、繋いだ手を強く握り、とても悔しそうに唇を噛んでいた。


 「私………やめたくない……ずっと、していたい。強くなりたいよ」
 「………響(ひびき)は強いだろ」
 「え?」
 「けど、もっと強くなれる。もし、出来なくなったら、俺が響の変わりに強くなる!」
 「千絃………」


 歩みを止めて隣りの少年を見つめる。すると、男は自分のバックからタオルを取りだし、響の顔に当てた。そして、涙をごしごしと拭いてくれる。
 乱暴だったけれど、いつもそっけない態度の彼が優しくしてくれるのが伝わり、響は嬉しくなりタオルの隠れて微笑んだ。


 「じゃあ、私の変わりに強くなってくれる?」
 「当たり前だろ」


 そう言って得意気に笑う千絃を見て、響はホッとした。
 彼ならば、私の夢を叶えてくれる。
 そう信じていた。




 けれど、その夢はすぐに消えてしまうのを響はもう知っていた。
 幼い頃の淡い約束など、大人になると幻のようになるのだ。



 そして、大切な約束が崩れ落ちる時の千絃の表情。
 彼の冷たい視線を、響は忘れることなど出来なかった。