いきなり激しく降り出した雨に傘持っててラッキー、と思ったのは一瞬だった。
傘を持っていない、目つきが鋭くてちょっと怖い、イケメン様がビルの軒下からこちらを見ている。
名前をぼんやり知ってるかな、くらいの隣の課のイケメン様だ。
どうしたらっ!?
と入社してまだ一ヶ月の平賀莉帆は固まる。
一緒に入りますか? とか緊張して言えないし。
かと言って、このまま通り過ぎるのも――。
電車で、ちょっと健康そうなお年寄りに前に立たれて、席を譲ると失礼だろうか、と迷い、
ああ、こんなことなら、座らなければよかったっ、と思う小心者の莉帆は、今も思っていた。
ああ、こんなことなら、傘持ってなければよかったっ!
今すぐ、この傘、爆破したいっ!