翌朝。

「ゴホッ! うっ……」
 朝から倦怠感が押し寄せてきて、起きてから三十分もしないうちに吐くハメになった。
 ヨーグルトと水と食パンくらいしか食ってないのに、こんなことになるのか。
 ……何を食べたかは関係ないか。そんなことが関係あったら、こんなに体調悪くなっていない。
「はぁ……」
 掠れ声が漏れる。
 吐瀉物の匂いとトイレの独特の匂いが鼻について、身体の調子がますます悪くなっていく。
「奈々絵、薬と水持ってきたぞ」
 爽月さんがトイレのドアをノックして、そんなことを言ってくる。
「すいません」
 俺は吐瀉物を流してから、トイレのドアを開けた。
 爽月さんは薬が入った小さなジップロックと水の入ったマグカップを持っていた。
 爽月さんはジップロックを開けると、その中から薬を取り出して、水に浮かべた。
 俺が片手しか動かせないから、そうやってくれたんだと思う。気が利いている。
「ん」
 爽月さんが水の上に薬が浮かんでいるコップを俺に差し出してくる。
 俺は右手を伸ばしてコップを受け取った。
 その瞬間、急な立ちくらみに襲われて、コップが手から滑り落ちた。
「うわっ!? 冷たっ!?」
 爽月さんの足元で、コップが音を立てて割れる。コップの中に入っていた水が、爽月さんの足を濡らした。
「すっ、すみませんっ!」
 最悪だ。
 体調が悪いとはいえ、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。
「謝んなくていい。これは事故で、お前のせいじゃなくて、病気のせいだから。な?」
「でっ、でも……」
 俺の病気のせいなら、俺のせいだろ。
「でもじゃねぇの。顔色、さらに悪くなってるぞ」
 そういって、爽月さんは俺にデコピンをする。
「……はい」
 俺はしぶしぶ頷いた。