「あの、爽月さん、拒食症ってまだ治ってないんですか?」
ベルトをズボンに掛けながら、俺は言う。
「いや、もうほぼ治ってる。一ヶ月に一回定期検診は受けてるけどな。ほら、あづ俺と病院で会ったって言ってただろ。それ、検診で来てた俺見かけたからだよ」
「……穂稀先生が主治医だったんですか?」
「いや、違う奴だ。そいつが主治医だったら、あづが虐待されてるって聞いた時もっとショック受けてるだろ」
確かに、それもそうか。
「何で、わざわざ俺と同じ病院にしたんですか?」
「……それ、狙ったわけじゃないんだ。拒食症になって一か月くらいした頃に、俺大学で倒れちゃって。そん時は長谷川病院じゃなくて他の病院で治療受けたんだけど、倒れた俺を心配して、ルームシェアしようって言ってくれた奴がいてさ。そいつの家が、長谷川病院のそばだったんだよね」
病院の道順聞かなかったのは、それで元から知ってたからか。あづと爽月さんが会ったのもそれなら納得する。
「その人って……」
「そ、お前の想像通りだよ。今朝会った俺の車預けてた奴」
「……そうですか」
俺に会いに行くつもりで長谷川病院にいったわけではないのに、親にそう思い込まれて家を追い出されるなんて、どれだけ嫌だったのだろう。
爽月さんには俺が親戚に嫌われているばっかりに、嫌な想いをさせてばかりだ。
「あ、お前俺追い出されたの自分の所為だと思ってるだろ? 気にすんなよ。俺紫苑が死んだのいつまでもお前の所為だと思ってる親なんて好きじゃねぇし」
「……でもそう思ってなかったら、好きなんですよね?」
目を見開いて、爽月さんは黙る。
「そりゃ、親だからな。……優しくしてほしいし、大事にしてもらいたいよ。産んでくれた人には。たぶん、もう叶わねえけど」
一分くらい口をつぐんだ後、髪をいじりながら爽月さんは言った。
「……すみません。爽月さんには、辛い想いをさせてばかりですね」
「いいよ。俺が好きでお前のそばにいるんだし。そんじゃ、荷ほどきするか!」
俺の頭を撫でて、爽月さんは笑った。
「……はい」
力なく俺は頷いた。
それから一時間ほどで、荷ほどきは終わった。
「ふー。終わった終わった。二人でやるとやっぱ早いな! ありがとな、奈々絵!」
「……いえ」
「じゃ、俺飯作るから、奈々絵風呂入って来いよ」
「はい」
それから何時間か過ぎて、深夜の十二時くらいになったころ、インターホンが鳴った。