「奈々絵、お前さ、あいつらと会ったら何がしたい?」
爽月さんが、首をかしげて聞いてくる。
「何がしたいですか」
助手席に座って俺は言う。
「そー。虐待やめさせるっつてもさ、大事なのはその過程だろ? そいつがお前に話せるようになるきっかけを作んなきゃな。そのためには、やっぱまずはそいつと楽しく遊ぶのが一番だろ」
「楽しく、遊ぶ」
「そう! それで心開いてもらうんだよ。何でも話せるって思われるくらい仲良くなんの! 何かねぇの? やりたいこと」
歯を出し、片手を銃の形にして、楽しそうに笑いながら爽月さんはいう。
「……えっと、動物園行きたいです。あいつ行ったことなさそうですし。あと海とか、ゲーセンとか」
「へえー。他には?」
「学校通いなおしたいです。それで、四人で寄り道したいです。クレープ屋とか、服屋とかに買い物に行きたいです」
「それは制服着て遊びたいってことか? そうか、わかった。なんとかしてやるよ」
「何とかって、何ですか」
「……俺が説得する。お前、私立じゃなくていいだろ? 都立なら、通わせてくれるんじゃねぇの。死ぬまでなら金もあんまかかんねぇし」
「……! ありがとうございます」
目を見開いて、俺はお礼を言う。
そんなこと言ってくれるなんて思ってなかったから、とても驚いた。
「別に。ずっと許してなかった詫びにするだけだから」
頬を赤くし、照れながら爽月さんはいう。
「爽月さんって、案外いい人ですよね」
「……俺は元からいい人だ。なんてったって紫苑が選んだ男だからな」
誇らしげに爽月さんは言う。
「それ、自分で言います?」
俺は呆れたように少しだけ笑う。
「うっせ。ほら、着いたぞ。入口にいんのあづ達じゃねぇの?」
病院の前につくと、あごで入り口を示して爽月さんは言う。入り口の前に、あづと潤と恵美がいた。
「ほら、これ持ってさっさと降りろ。スーツケースは家に運んどいてやるから」
爽月さんは後部座席に置いてあった薬とペットボトルの水とスマホが入ったトートバックを掴むと、それを笑って手渡してくる。
俺はそれを受け取ることもできず、助手席から動くこともできない。
「……早くいかねぇと、あづがすねるぞ」
「本当に、行っていいんですか」
「……迷ってんなら、行かないと後悔するぞ。俺が言えんのはそれだけだ」
俺はバッグを受け取って肩にかけると、車のドアを開けた。