「わかったわ」
「え?」
なんの返事?
「逃げていいわよ、空我。そのストラップ、一生スマフォから外さないって約束するなら」
その言葉を聞いて、テンションがかなり落ちた。
発信機でもつけられているのだろうか。それか監視カメラとか?
「……わかった。約束する」
「ん。いい子ね、空我」
俺の頭を撫でて、母さんは笑う。
撫で方が優しくて、泣きそうになるくらい胸が締めつけれる。
俺は何も言わず、ぬいぐるみをぎゅうっと握りしめた。
明日も暴力を受けるハメになるくらいなら、発信機で、居場所を常に把握されたり、監視をされたりしている方がよっぽどマシだ。
母さんが俺の頭から手を離す。
「またね、空我」
俺は何も言わずに母さんから離れ、階段を降りて一階へと足を進めた。
母さんは追ってこなかった。どうやら俺を本当に逃す気のようだ。
やっぱりぬいぐるみに、発信機か監視カメラがついてるんだろうな。
そんなことしなくたって、俺は母さんが好きなんだから、本気で母さんから逃げるわけがないのに。今も一時的に、暴力から逃れようとしてるだけだし。 ……本当に、どうして、俺、こんなにも母さんが好きなんだろう。母さんは、悪魔みたいなもんなのに。