「母さん」
ボロボロになってる身体を無理矢理起き上がらせて、廊下に出て母さんに声をかける。
「今度は何」
「……警察には言わない、奈々にも、もう心配かけないようにする。だから……逃がして。明日になったらどうせ、また俺を殴るんだろ。だったら逃がして。俺は、母さんと一緒にいるのが怖い。……逃がしてください、お願いします。母さんのこと、怜央にも奈々達にも言わないから」
「……スマフォ出して」
俺がスマフォを出すと、母さんは俺のスマフォを持って、自分の部屋に行った。
「母さん?」
後を追って、母さんの部屋の中に入る。
意外だ。
入ってこないでって言われると思ったけど、何も言われなかった。
ドアのすぐそばに、白衣がかかったハンガーラックが置かれていて、その隣にドレッサーがあった。
ドレッサーを開けて、母さんはそこから、青いうさぎのぬいぐるみのストラップを取り出す。
俺のスマフォのカバーについてるストラップホールに、ぬいぐるみのストラップを通すと、母さんは口角を上げて笑った。
「ほら、あげる。プレゼント」
ぬいぐるみのストラップがついたスマフォを渡される。
「え、母さん、これ、俺、もらっていいの?」
スマフォを受け取って首を傾げる。
「ええ、あげる」
「やった!」
母さんから金以外のものをもらったのなんて、虐待をされる前以来だしすごく嬉しい。
スマフォは買ってもらったけど、連絡手段のものだから、金と同じで、なきゃ困るものだし、例外だ。
心臓が跳ねて、気分が高揚する。
あ。
なんで。
なんで俺、自分に暴力を振るうような母親からものを貰えて、喜んでるんだろう。
……どんだけ母さんのこと好きなんだよ。はあ。俺って、本当に馬鹿だな。