「あんたを降さなかったのは、医者をしている大人が、子供を降ろすなんて許されないことだと思ったから。赤羽くんのことがあるから、そのことをあんたに感謝されるのはわかるけど、責められるのは絶対に違うわ」

「……子供を降ろすのはダメだってわかってるのに、なんで暴力はいいと思ってんだよ」
 暴力もダメに決まってんだろ。

「あんたは子供じゃなくて、私の所有物だから」
「は? さっき子供って言ったじゃん」
「そうね。でも子供だと思えたのは最初だけだった。小さい時のあんたはまだ顔が成長途中で、私とあの人のどっちに似るか分からなかったから。でも成長して、あんたは私じゃなくて、あの人に似るようになって。私はあの人にそっくりなあんたを、疎ましく思うようになって、あんたを子供だと思えなくなった」

 何それ。
 じゃあ俺なんも悪くねえじゃん。

「俺は母さんの子供だよ?」
 足から手を離して、母さんの頬にそっと手を当てる。
「違うわ。あの人に似てるあんたなんか、私の子供じゃない。あんたはただの私の玩具」
 俺の手を振り払って、母さんはいった。
 瞳から大量の涙が溢れ出す。
 嘘でもいいから、そうだよって、子供だよって言って欲しかった。
 なんで。俺が何したって言うんだよ……。
「被害者ぶらないで。そろそろお父さんがお風呂から出るだろうから、もう今日は解放してあげる。後でご飯持ってくるから」
 母さんがタオルの結び目を解いて、ベッドの柱のとこに固定されてた俺の右手を自由にする。

「母さん」
「何?」
「母さんは、俺が嫌い?」

「ええ、世界中の誰よりもね」
 実の息子にこんなことを言う母親って……。

 また、瞳から涙が出る。
 母さんは泣いている俺を無視して、部屋を出て行った。

 ……逃げたい。地獄当然のこの世界から。母さんから。でも、どうやって。下に行って靴を履いて逃げたら、絶対止められるよな。

「はあー」
 しんどい。

 何で俺、こんな目に合ってんの? 
 俺が何したっていうんだよ。