「か、母さんが俺に怪我を負わせなかったら、奈々が俺を心配してスマフォを見ることもなかった」
「でもスマホフォを見せたのは空我でしょう」
「見せたわけじゃない、母さんとのライン見てたら落として、奈々が拾ってくれて」
「それならやっぱり、赤羽くんが拾う前に手にとらなかったあんたが悪いじゃない」
そんなの、あまりに横暴だ。
瞳から、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「ご、ごめんなさい。でもその、奈々は頭が回るから、母さんをすぐに警察に通報することはないと思う」
俺の弁明を聞いて、母さんは言う。
「それはそうね。でも、電話が来るんじゃないかしら。赤羽くんから、私に。そうなったら、私はどう誤魔化せばいいの?」
左手で口を塞がれ、包帯が巻かれている手首を指の腹で押される。
「んっ、んんっ!!」
手首に指の腹があたるたびに、とんでもない痛みに襲われる。
「はあっ、はあっ」
俺は荒い息をして、母さんによりかかった。……しんどい。
「何。よりかかんないでよ、気持ち悪い」
はは、ひっでぇ。誰かによりかかんないときついくらいまで弱らせといて、そんなこと言うのかよ。
どうやら俺の母さんには常識というものがかけらも備わっていないらしい。
いや、母さんが俺を息子だと思ってなさすぎるのか。
「実の息子に面と向かって気持ち悪いっていうなんて、一体どんな母親だよ」
母さんを怒らせるとわかっていたのに、ついそんな言葉が漏れた。
「だってあんたは、私に似なかったじゃない。あんたの顔は綺麗よ。父親がフランス人なんだから、正直言って私の十倍は綺麗だわ。でも、その顔は私がもう二度と会えない人の顔なのよ。だからその顔を見ると、私は不快にしかならない」
俺は子供が友達に意地悪をする理由を聞いているのだろうか。そんなことを考えてしまうくらい、その理由は下らなかった。
しかも俺今目隠しされてるから、顔半分見えてないし。それなのに気持ち悪いって、かなり酷くないか。
「気持ち悪いって言った理由がよりによって、昔好きだった人を思い出すからかよ。母さんはそんなことが理由で俺に暴力を振るって、気持ち悪いって言って、どっかの国のえらいお姫様にでもなったつもりか?」
頭にきて、また、母さんを怒らせることを言ってしまう。
「それが親に対する態度?」
やばい。声のトーンだけで、とても怒っているのがわかった。
突然腹を押され、思わず床に尻餅をつく。
「いっ!」
服の襟を引っぱられ、身体を床に引きずられる。
「いっ、痛え、は、離して」
襟を持ってない方の手で、口を塞がれる。
「ん、んんん!」
『か、母さん!』と叫びたいのに、声にならない。
「はあ。わかったから」
母さんは壁際にあるベッドの前まで俺を引き摺ってから、口から手を離した。
「ぷは。はあ」
母さんは枕の上に置かれているタオルを手に取り、それで、俺の右手を、ベッドの柱に固定した。