『子供にとって親は全てだ』なんて思わないし、思えない。俺は親を小さい時に亡くしてしまっているからあづや潤達より親といた時間がかなり短いし。それでも、子供にとって親が大切な存在なのは、分かっているつもりだ。
爽月さんも、親からの虐待はかなり辛いと言っていたし。爽月さんは大人で、物事を客観的に見ることが出来ているから、親からの洗脳は受けてない。その一方であづは爽月さんと違って子供だし、自分のことを客観的に見るのなんてかなり難しい。そのせいで、自分を客観的に見れていなかったせいで、あづは洗脳を受けていることに気づけなかったんだと思う。
でも俺は、そんな風に洗脳を受けたあづを可哀想だなんて絶対に思いたくない。俺は誰かに同情されるのも、誰かに同情するのも嫌いだ。可哀想って言葉が、世界で一番嫌いだ。そんな言葉は、口先だけでしかないから。可哀想って想う暇があるなら、哀れみを感じる暇があるなら、助けてくれと想ってしまうから。
「これからどうする?」
恵美が首を傾げる。
「まずは俺があづの母親と話す。そんで話の内容次第で、あづと母親を引き離す」
穂稀先生があづを好きで、虐待はストレスの発散のためだったらまだ救いはある。穂稀先生が、あづをより好きになってくれれば、虐待をやめる可能性があるから。逆に、穂稀先生があづを嫌いだったら、全くもって救いがない。もしもそうだったら、あづをこのまま家にいさせるのは危険だ。すぐにでも保護しないと。
頼むから前者であってくれ。でないと、余りに救いがなさすぎる。
俺は潤の家のベランダで、穂稀先生に電話をかけた。