また子供扱い……。
 俺ってそんなに子供っぽいか? でもだとしたら、それはあの母親のせいで教養が抜けてるせいだ。

 ブーブー。
 ズボンのポケットに入れていたスマホが突然音を立てる。
 何かと思ってポケットからスマホを取り出すと、母さんからラインが来ていた。

 嫌な予感がした。

「俺、トイレ」
 三人にスマホを覗き込まれないようにダイニングを出て、廊下へと足を進める。

 恐る恐るラインを開く。『あんたが怪我を警察に見せたせいで、今日は本当に気が気じゃなかったわ。お母さん、誤魔化すの大変だったんだから』という連絡が来ていた。
 人に見られたら困るような怪我を子供に負わせるなよ。

『やっぱりあんたは面倒ごとしか起こさないわね。あんたなんか産まなければ良かった』
 続いてきたラインを見て、心臓が張り裂けそうになった。

 俺は別に、こんなことを言われるために怜央と馬鹿してたわけじゃない。ただ虐待のストレスを発散したかっただけだ。それなのに……。

「はあっ、はあ」
「あづ、何かあった?」

 奈々がダイニングから廊下につながるドアを開けて、心配そうに顔を覗き込んでくる。

「あっ」
 なんて答えればいいのかわからなくて、動揺して、思わずスマホを床に落としてしまう。
 トイレに行くって言ったくせに廊下にいたから、変に思ったんだろうな。

 奈々がスマホを拾い上げる。
 見てはいけないものを見てしまったかのような驚愕の顔をして、奈々は俺を見る。

 あ、終わった。バレた。
 隠さなきゃいけなかったのに。

「ほら。気をつけろよ」
 それだけ言って、奈々は俺にスマホを返した。

 え?

「……うん、ありがとう」
 礼を言ってスマホを受け取る。

虐待のこと聞かれなかった。気を遣ってくれたのか? 
 俺が待ってって言ったから? 
 なんでそこまで優しくしてくれんだよ。
 俺はこんな奴に、虐待のことをずっと話さないでいるつもりなのか?

 自己嫌悪で、喉が焼けそうだ。

 それでも俺にはあの母親を裏切る勇気なんててんでなくて、母親を庇うことしか俺にはできない。

 裏切ったら何をされるかわかったもんじゃないから。
 また、母さんからラインが来た。

『お父さんがあんたに会いたいっていってるから、夜には帰ってきなさい。顔は見せなくていいから』
 ついさっきは帰ってくるなっていったくせに、今度は帰って来いか。

 一体どっちなんだよ。
 はあ……。 
 めんどくさ。

 でも行かないと多分怒られるよな。

『わかった。奈々達に帰るって言う』
 俺は、母さんにそうラインを送った。