「ね、奈々、髪切ってあげよっか?」
恵美がソファから立ち上がって、首を傾げる。
「え、できるのか?」
「うん! 実は私、美容師志望なんだ!」
ファッション会社の娘なのに、美容師志望なのか。まあ親の仕事を継ぐのが子供の幸せとは限らないからな。
「そしたらお願いしていいか」
「もちろん! もうあいつらに馬鹿にされないように、私が奈々をうんとかっこよくしてみせる!」
服の袖をめくりあげて、自信満々な様子で恵美は言う。
「それは楽しみだな」
「期待してて! そーだ! ついでに髪も染めちゃおっか。何色がいい?」
「俺みたいに目立つ色にすれば? そしたらあいつらビビって寄り付かなくなんじゃね?」
「あはは! 言えてるかも! そしたら金とか、赤とか?」
俺の提案に、恵美は声をあげて笑う。
「赤羽なんだから赤じゃね? まあ奈々は顔がいいからなんでも似合うと思うけど」
三人がびっくりしたかのように目を見開いて俺を見る。
「お前さらっと何いってんだ」
奈々が俺を見て顔を顰める。
「え、なんだよ。だってそうだろ」
「いやまあそうなんだけど、本人がいる前で言うの、恥ずかしくないの?」
信じられないといった様子で、恵美は言う。
「なんで?」
「恵美やめとけ。あづに羞恥心なんてありゃしねえから」
顔の前で手を振って、潤は呆れたように言う。
なんだかとても馬鹿にされている気がする。
「俺だって羞恥心くらい」
「ねえよ」
「ないわね」
「ああ、ない」
口々に首を振って、三人はいう。
「なんで三人とも否定すんだよ!!!」
拗ねるみたいに大きな声で抗議する。
「あ、顔真っ赤。ごめん、あったみたい」
恵美が声を上げて、可笑しそうに笑う。
「ふざけてるだろおい!!」
「まあまあそんなにカリカリすんなよ、あづ」
俺の頭を撫でて、潤は楽しそうに、口角を上げて笑った。