「美香は精神的に昔から不安定だった。」
話すことがあまり得意ではない恭が、とぎれとぎれ言葉を選びながら話をしてくれていることが伝わり私は言葉を聞き漏らさないように真剣に耳を傾けた。
「彼女を支えるために、必死でバイトして、奨学金も借りて、精神科医になった。」
知らない話ばかりだ。

「精神科医になって、忙しい毎日を送ってたら、美香が精神的なバランスを大きく崩してさ。あー俺仕事ばっかりになってたって。なんのために精神科医になったか忘れるとこだったって思って、俺は慌てたんだ。大学病院を辞めて、ここに引っ越してきた。」
「・・・」
「引っ越して、仕事にも余裕ができて、家も買って・・・俺はまた安心しきってた。婚約して、入籍する日を決めて、そこしか頭になかったのかもしれない。馬鹿だよなー。」
恭が言葉に詰まった。

何かを思い出すように海を見る瞳が揺れている。