「俺、家族にあこがれてたんだ」
初めて聞く恭の話。

「施設で育ったんだ。俺も・・・美香も・・・」
美香という名前に心当たりがあった。

茶の間にある仏壇にある写真の人の名前だ。
恭の口からその名前を聞くのははじめてだった。

「家族にあこがれて、あの家を買った。」
古民家を何度も一緒に修理したことを思いだす。
すっかり今では工具の名前も覚えた。

「結婚する約束をして、美香もあこがれてたあの家を買って、俺は安心してたんだ。」
「安心?」
「これで彼女の不安を消せるって。一緒にいれば救えるって。」
すっかり沈んだ夕日。

水面に反射する街灯の明かりに恭の顔が照らされている。