「鈴」
私の方へ視線を移す嶺に、これからなんと言われるか怖くなる。

「本当は今日一緒に家に行ったときに話そうと思ってたんだけどさ、俺の勇気がなくて言えなかった。」
「・・・」
「もしかしたら二度と鈴と会えないかもしれないって覚悟してた。でも、こうして鈴は生きていてくれた。もう一度一緒に暮らしていたあの家に鈴がいる姿に俺、泣きそうだった。」
「・・・」
「ピアノを弾く鈴を見て、うれしくてここで俺の人生終わったって幸せだったって言えそうだって思った。」
ずっとあの広い部屋でひとり私を待ち続けてくれていた嶺の気持ちが私の心に響いてくる。
「でも・・・また一人の部屋に俺は戻る・・・。」
「・・・」
「言えなかったのは、今の鈴が。記憶を失っている鈴を無理やり今俺があの家に連れて帰ることはできない。鈴が壊れそうで怖い。また・・・あの時みたいにいなくなってしまうかもしれない。守りきれないかもしれない・・・。そう思ったら言えなかった。かっこ悪いけど。かっこ悪すぎるけど。」
恥ずかしそうに頭をかく嶺。