一旦並木に沿って歩き終わり、桜祭りの中心地である大きな公園内の東屋に二人で腰掛けた。公園には人が多く居たけれど、幸運にも先客の居ない東屋を見つけることが出来たのだ。



「は~、疲れたー!」


「あはは、まだお昼だよ」



深く腰を下ろす彼に笑って返す。

ユウの隣に座ると、彼の手が私の顔に伸びてくる。
それに気付いて心臓が一回、少しだけ大きく音を立てた。


そして彼は私の頬に手を添えて微かに撫でる動きをする。



「ゆ、ユウ……?」



そう声を掛けるとパチッと視線がぶつかる。



「んー?」



彼の声はいつもと変わらない。のんびりとした口調のままだ。

絡み合って逸らせない視線はいつもみたいにふわふわと掴めない――けど。


――何だか、その奥の瞳は熱を持っている気がして。

気のせいかな? でも、その熱がふわふわした建前に隠れきれていないように感じるんだ。



「レイ、チューして良い?」


「えっ……えっ!?」


「ふふっ、どうしたの。初めてじゃ無いでしょ?」


「そっ……!」



それは、そうだけど!

何でそんなことをいちいち確認するの? その目の深淵に潜んでいる熱は誤魔化しきれていない程の温度を持っているように見えるのに、それなのに何かに踏み込むことを酷く躊躇っているような、そんな瞳。

私は、……。――私は……? 私は、何だ?



「ねえ、レイ?」



ユウは私の唇に微かに吐く息がかかるほど近くに頭を寄せて言う。



「――もうっ、良いよ、良いからっ」



――チュッ



私の返事に被せるように、軽く唇同士が擦れた。



「なっ、こんなの良いとか悪いとか無いじゃん」


「え、何? もっと激しいのが良かった?」


「そういうことを言ってんじゃないってば」


「ははっ、ほら、これ食べよ?」



ユウは笑って、さっき屋台で並んで買った惣菜を出す。


ああ、もういっか。ユウの顔みてると細かいことなんてどうでも良くなってくる。



「うん」