春は花びら。
夏は入道雲。
秋は枯葉。
冬は雪。
座標は違えど、
空に浮くホログラムと共に、
季節は移り変わる。
爽やかな夏風が吹くあの日、
僕と君は出会ったね。
湖の境界線から、
入道雲の山脈を眺めていた学校帰り、
長い黒髪をたなびかせて、
君は波動関数の描く波の上を、
歩いていた。
勇気を出して踏み込んだ一歩は、
2マイルに等しい。
とても遠かった君との距離が
一気に縮まったんだ。
まるで、夢のような、
幻想のような日々。
夜、手を繋いで見上げた星は
今までみたどんな星よりも、
キラキラと輝いていた。
だけど、別れの時が近付いていることを、
僕は知っていた。
僕は世界線Q。
君は世界線P。
お互いに住む世界は違っても、
あの日たまたま、
奇跡とも言える確率で、
二つの世界が交差したんだ。
その間はとても短かったけど、
君と過ごせた日々は
とても楽しかった。
でも、もうお別れだね。
世界線の分離はもう始まっている。
また僕らは離ればなれだ。
僕らの隣り合った平行線も、
いずれは分岐を繰り返し、
無数の世界が隙間に生まれていくだろう。
あの日握り締めた手が、
ほどかれ、離れていくように。
それでも、あの日の胸の
高鳴りは忘れない。
君と交わした言葉は、
ずっと、忘れない。
例え僕の世界線が、
Q'1、Q'2、Q'3と分かれて、
いずれQじゃなくなる日が来ても、
君と過ごした日々を忘れたりしない。
君は僕の大事な人だから。
それじゃあ、僕はいくよ。
元気でね。
もし、再び物理的原理に
逆らった奇跡が起きた時は
あの星空の下で、会おう。
さようなら。
僕の大切な人。