「待ってよー!」
こうくんの腕をつかみ、甘えた声を出す松沢さん。
ピタリとこうくんの足が止まった。
「……おい、何してんだ、クソ女」
「えー、酷い!」
「……離せ」
……っ。
こうくんは冷めた目をして松沢さんを睨みつけた。
その顔は、一度見たことがある。
中学の頃、私が女の子たちに呼び出されたことがあった。
その子たちは、こうくんに好意を寄せている女の子たちで……文句を言われていたところを、こうくんが助けに来てくれたんだ。
そのときと……同じ顔。
視線だけで、相手を凍りつかせてしまいそうな目だった。
さすがの松沢さんも、これには萎縮してしまったらしい。
「も、もうっ! わかったよー! 今日は諦める! また明日っ!」
そう言い残して、足早に去っていった。
えっと……い、一件落着?