人に話しかけられても一切返事をしない、究極の無口(無愛想ともいう)。


群れてナンボみたいな風習があるこの高校にいながら、入学からひと月半経った今も、誰ともつるまず一匹狼で居続けている。


変わった人ばかりのこの学校だけど、その中でも彼は特に特殊な人だ。


「は?」とか、「さぁ」とか、「別に」とか、「うるせぇ」とか、そういう一言なら返すこともある。けどそれすらも稀。


話しかけられても平気で無視するゆえに、同級生や先輩から睨まれまくって4月の上旬のころなんて毎日教室に強面ヤンキーが集まって怖かった。


でもどんなに気を引かせようとしてもまるでなびかない彼に対して、次第にみんなは諦めはじめ、今では彼の周りもすっかり平穏になった―――と思いきやだ。


強面ヤンキーと代わるようにして、今度は学年のあちこちから女の子が来栖くんを見に来るようになってしまった。


今まで彼の周りを囲っていた厳つい見た目のヤンキーが消え、水面下にいた女の子たちがじわじわと顔を出し始めたのだ。その目に好奇と憧れの色を宿して。


滅多に喋らず、いつも窓の外を見るか寝ている、ミステリアスで危険な香りのする彼。


しかも、誰が見てもはっとするような整った顔立ち。


そりゃあモテるわけだよなぁ。


完全に他人事のように私は思う。


休み時間のたびに廊下に集まって見に来る子や、果敢に話しかけにいく子もいる。そのどれもを来栖くんは無視して。


だから本当によっぽどのことがないと口を開けようとしないのはわかってたけど……、まさか有須さんが目の前にいて、2人っきりなのにそれでも無視するとは思わなかった。


あんなに可愛い子に声をかけられても表情ひとつ変えないなんて、さすがにマスクでもかぶってるんじゃ?などと勘繰ってしまう。


有須さんの顔も見ていないところをみると、彼女には本当に関心がないことが遠目から見ている私にはわかってしまった。