舌が肥えてるなら、こんなシンプルな料理では物足りないかも知れない。


どうしよう、何だか急に不安になってきた。


「ピンポン」


一瞬、ドキッとした。


インターフォンの映像を見る。


あっ、絢斗だ。


私はドアまで走った。


「あ、はい! 今開けます」


「ただいま。一花」


香水の素敵な香りと共に、絢斗の甘い声が、私の心を一気に癒してくれた。


「お、おかえりなさい」


かなりぎこちない挨拶。


ガチガチになってる自分が、ちょっと笑える。


でも、やっぱりこんなのドキドキするなっていう方が無理だよね。


ドアを開けて、好きな人を迎えるなんて……


本当に、夢を見てるみたい。


「あの、今日からお世話になります。よろしくお願いします。えと、すみません。もう引越し業者の方に荷物を入れてもらって、勝手に片付けました。あと、キッチンも……使わせてもらってます」