次の日。

今日は雨だった。

椅子に座ったまま、窓の外をボーッと眺める。

窓に張り付く水滴が、灰色の曇った世界を反射していた。

しとしとと降る雨は気分を下げる。

教室はいつもに比べて、どことなく静かだった。

……そんな空気をよまない人が1人。




「ねぇ!高橋くん!」




……来た。

長い桃色の髪をふわっとなびかせて俺の前に現れる女子。

小笠原。

いつもならちらっと小笠原を見て、無視をする。

だけど、今日は小笠原の方は見なかった。

昨日の男たちの会話が頭の中で再生される。

だんだん腹がたってくる……。

早くどっか行けよ。




「今日雨だねー!朝から靴下がねー……」




鈍感なのか、小笠原は気にせず俺に話しかけてくる。

……何だかクラスメイトの視線を感じる気がする。

気のせい……気のせいだ。

俺なんかのこと、誰も見ないって。






……でも、小笠原は?

容姿端麗で成績優秀。

可愛くて明るく、前向きなクラスの人気者。

そんな小笠原のことは、みんな見るんじゃないか?

今まで気づかなかっただけで、本当は小笠原が何度も俺に話しかけているところを、みんな見ていたんじゃないか?

そして……





『小笠原にはもったいないって』






昨日の男たちの言葉が頭の中で響いたとき。

俺の中で何かが壊れた。




ガタッ!!




俺は思いっきり席を立った。

椅子が派手な音を立てて後ろに下がる。

一瞬、教室の音がやみ、しんと静まかえる。

クラスメイト全員が俺の方を見る。





「た、高橋くん!どうしたの……?」





小笠原が俺の顔を覗き込むようにして見ようとする。

俺はとっさに下を向く。

そして……





「……近づくな」





自分のものとは思えないくらい低くて冷たい声が溢れる。

やめろ、近づくな。

俺に関わるな。話しかけるな。

小笠原が俺に話しかける意味なんてないんだ。





「え……?なに?」






首をかしげて笑う小笠原。

……なんでこんなときまで笑うんだ?

機嫌を取るつもりなのか?

笑えば許してくれるとでも思っているのか?

ずっと笑っていれば……嫌われないとでも思っているのか?

……バカだな。






俺は小笠原の両手首を掴み、壁に押し付けた。

小笠原の手首は、折れそうなくらい細かった。

俺は小笠原の手首に力を入れる。

小笠原は、困惑した表情と笑顔で微妙な顔になっている。

そんな小笠原の顔が俺の目の前にある。

その距離は20cmほどだった。





「もう、俺に二度と近づくな!」





俺は結構な声量で言った。

こんなに大声を出したのは久しぶりだ。

さすがに小笠原の顔からは笑顔が消え、驚きを隠せない表情になっている。

クラスメイトたちは俺たちのことを呆気にとられた表情で見ている。

……これでもう、小笠原は俺に近づかないだろう。

俺は最後にもう一度小笠原の手首に力を込めてから、ゆっくりと離す。

小笠原が何か言いたそうだったが、無視した。

そして、誰とも視線を合わせず教室を出た。









……バカだな、小笠原。

最初っからわかってんだよ。

お前がいつもどことなく寂しそうな表情をしていること。

お前の笑顔が




全て作り笑いだってこと。