《銀河》
新学期。4月。
暖かい春風が俺の頬をかすめる。
上を見れば、憎たらしいくらいどこまでも続く真っ青な空。
何で今日に限って、こんなに天気がいいのか……。
新入生的には、この天気は最高なんだろうけど、あいにく俺はただの高校2年生だ。
別にどんな天気だろうと、正直どうでもいい。
そんなことより、俺は早くクラスを確認して教室に行きたい。
行きたい……のに。
なんだこいつらは……。
俺は目の前の光景を呆然と見つめる。
クラス表の前には、陽キャでリア充であろう同級生たちがクラス表を食い入るように見ていた。
しかも、何十人もの生徒がその場を全然動かない。
どうせ、こいつらは同じクラスに友だちがいるかとか、好きな人が何組なのかを探すのに必死なんだろうな。
正直言って、ずげー邪魔。
俺はただ自分が何組なのかを確認したいだけなんだ。
俺はどうせどのクラスでも1人でいるつもりだし。
本さえあれば、別に友だちなんていらない。
俺には青春だと言って、はしゃぐ人たちの気持ちがわからない。
「友だち」なんて、結局……。
それにしても、全然みんないなくならないな。
この様子だと、しばらくは見れそうにないな。
まだ時間もあるし、そこらへんのベンチでこいつらがいなくなるのを待つか……。
そう思い、歩き出そうとしたときだった。
……「君」に初めて出会ったのは。
「1組だよ」
……は?
俺の目の前に女がいた。
俺はこの女が誰に話しかけているのかわからなかった。
少なくとも、俺ではないと思っていた。
「銀河!1組だよ」
けれど、次の言葉に俺の名前が出てきたことで、その考えは消えていった。
誰だ……こいつ。
なんで俺の名前を知ってるんだ?
桃色の長い髪。
宝石のような丸く澄んだ瞳。
春風のような笑顔。
こんな知り合いいたっけ。
いや、俺には片手で数えられるほどしか知り合いがいないんだ。
しかも、女。
俺はこんなやつ知らない。
「お前……誰だ?」
俺は思ったことはそのまま言うタイプだ。
嘘をつくのもめんどくさいし。
女は、しばらくの間下を向いていた。
2人の間に沈黙が流れる。
俺……なんかしたっけ?
やっぱり知り合いだったのか?
沈黙に耐えられなくなり、口を開けかけたときだった。
女はガバッと顔をあげ、さっきと同じ春風のような笑顔で言った。
「銀河……高橋くん、女子の間で結構人気だから知ってたの!ごめんね、急に」
なんだ……そういうことかよ。
俺は多少顔が整っているらしく、女子の間では結構知られているらしい。
何度か噂も聞いたことがある。
めんどくさいから、顔は長い前髪で隠しているのに。
この女も、あのめんどくさい女子の中の1人か。
「私、小笠原 愛蘭。高橋くんと同じクラスなの。よろしくね!」
「ああ……よろしく小笠原」
俺は適当にそう言って、その場を去った。
横目に見た小笠原の顔が泣きそうに見えたのは気のせいか……。
どうせ、俺には関係ない。
俺はずっと1人だ。
「やっぱり……覚えてないか……」
小笠原が呟いた小さな声は、俺の耳には届かず、春風にかき消された。