私は塾に友達がいないので、一人でご飯を食べることが多かった。私のように一人で食べている人も多くいたが、中には友達同士で食べてる人もいた。少し羨ましかった。

基本的に、大橋先生は用事もないのに自ら一人で私に話しかけてくることはない。しかし、他の先生は気軽に私に話しかけてくださり、ご飯の時間はとても楽しかった。

いつものようにプリントを見ながら晩ご飯を一人で食べていると、他の先生に声をかけられた。そのプリントの話をしたりしていた。すると、その会話に大橋先生が入ってきて、そのプリントをみた。そのプリントはセンターの現代文の問題で、先生は唯一漢字が得意だったようで、
「この文字の漢字はこれやから、答えはこれやろ! ほら、せーかい!」
なんていうマウントをとってきた。私より3歳年上なのに、この時は私より年下だなと思った。でも、そのギャップが私の心を揺さぶった。

先生は自ら私に話しかけることはないが、人と話しているとスッと会話に入ってくることが多かった。私は、普通に話しかけて欲しかったが、どんな形でも先生と話せる機会ができることは嬉しかった。

12月末になり、センター試験の過去問を解いたりしていた。理科が思うように伸びず、困っていた。私は割と諦めていた部分があった。無理やろなと。しかし、先生はいけるってと信じてくれていた。

授業後、私の塾では今日は授業で何をしたのかを報告する面談というものがある。その面談が終わり、いつも気さくに話しかけてくれていた藤原先生という先生が私に話しかけてきた。
「最近どう?なんか元気ないやん」
そこで私は大橋先生が少し席を外している間に藤原先生に受験の不安などを話していた。しばらくすると、大橋先生が帰ってきた。授業が終わったから別に授業の席を離れてもいいのに、私と藤原先生の話を無言でずっと聞いていた。しかし、私は親身になって考えてくれる大橋先生や親には、その人のことを信じてないんじゃないかとか申し訳ないという気持ちが勝り、いつも相談できなかった。藤原先生はいい意味で私の成績のことを知らないからなんとでも言える。だから、相談しやすかった。
「なんで大橋先生に相談しないの?」
と藤原先生に聞かれた。
「きっと大橋先生、石川さんに相談して欲しいって思ってるよ?ね、大橋先生?」
そう言われた大橋先生は、無言で深く頷いていた。
私のことをよく知っている大橋先生に相談すればきっと心は軽くなる。でも、相談できなかった。
大橋先生は少し悲しそうな顔をしていた。