「…馬鹿みたい」
そう呟いて、私は再び先生に視線を戻した。
「おっ、あったあった。これだ。」
お目当てのページを見つけたのか、ノートを手に取ると、黒板に何かを書き始める。
「武士の家は跡取り争いが絶えないが、その中でも面白い跡取り争いがあるんだ。それが、この、”松士”の一族だ」
「えっ……」
先生の言った言葉に、ぼけていた頭がぱっと反応した。
松士。
聞いたことのある名前だ。
…昨日の夢の中で。
「ここには佐江宗と伊江宗という双子の若君がいてな。双子だからどっちが跡取りになるかで、揉めたんだ」
佐江宗と伊江宗。
夢の中で聞いた名前が、どうして今語られているのだろう。
「そこで採用した跡取り決め方法が、一人の女を二人の嫁に迎え入れるというものだったんだ。どうだ~?面白いだろ」
知ってる、これ。
でも、知っているわけがない。