一歩一歩近づくたびに高瀬の声がはっきり聞こえてくるようになった。

「ねぇ西河、この人たち日本語が理解できないのかな?」

「おいおい、そこまで言うなって」

「無理だって言ってんのに、しつこすぎる」

「まぁ、もっと優しくさ」

「見知らぬ他人に優しくするメリットなんてなにもないだろ」

「あの、無理ならお名前だけでも教えてくれたら嬉しいっていうか〜! SNSで検索するんで、ぜひ!」

「あ、それ超名案〜! うちらツブヤイターやってま〜す!」

「俺、そういうのまったくやってないんでー。もうこれ以上話してても埒が明かないから、さよーなら」

「えー、そんな冷たいこと言わないで〜! 超タイプなのに」

懇願するような女の子の声をスルーして、高瀬の背中が気だるげにこっちに振り返った。

「たまちゃん!」

わたしを見るなり笑顔を浮かべて、声を弾ませる。

一目散に駆け寄ってきたかと思うと、高瀬はわたしの肩にそっと手を添えた。

「遅かったね。待ちくたびれたよ」

「え、まさか彼女?」

「わー、ショック〜! 超絶タイプだったのに〜!」

「ま、あれだけイケメンだったらいるよね……行こ行こ。もう冷めた」