その状況を理解するのにしばらく時間がかかる。どうしてこんなことになってるのか。

あの錦小路社長という人をひっぱたいてしまった私が、今その彼に抱きしめられている。

彼の体はとても熱くて鼓動も速い。

まるで度数の高いお酒を飲んだ直後みたいに。

その大きな体に包まれていると、不思議とそれまで高ぶっていた感情が鎮まっていく。

きっと、私が柄にもなく泣いて弱音なんか吐いたから、彼が慌てて小さい子をなだめすかすように抱きしめてくれているに違いない。

「すみません……」

彼の腕の中で小さく呟いてみたけれど、彼は更に強く私を抱きしめた。

「いつも強がってるけれど、本当は誰かに甘えたくて仕方がないんじゃないのか？」

そんな優しい言葉をかけられただけでさっき耳にキスされた時のように体が甘く痺れる。

自分の理性ではどうしようもないような苦しくて切ない思いが体の中心で暴れていた。

こんな気持ちになるのは初めてのことだ。ましてや男の人に抱きしめられるなんてことも。

苦手なのに、そばにいたい。

腹が立つのにもっと話したい。

嫌いなはずなのに……？

矛盾する感情が私の中でぐるぐる渦巻いて出口を探していた。

でも、昨日からほとんど寝れていない私の体も頭も限界だったのかもしれない。

自分の感情の治まりどころを探しているうちに瞼が次第に重たくなっていき、その居心地のいい彼の腕の中で意識が遠のいていく。

「甘えたい時は甘えればいい」

そんな彼の声が聞こえたような気がした。