ゆっくりとソファーの上に押し倒される。

彼の体重が僅かに感じられた。

下りた前髪の奥に見える妙に艶っぽい彼の目にくぎ付けだった。

形のいい鼻の下には薄くて引き締まった唇。その唇の横には色っぽいと評判の小さなホクロ。

性格はともかく、こんなに素敵なルックスの男性になら一晩くらい身を任せてみてもいいんじゃないかと思うほどにどこを切り取っても美しいわけで。

彼の指が私の鼻筋をなぞり、そのまま唇に降りてきた。

まだ本でしか読んだことがないけれど、こういうのをゾクゾクするって言うんだろうか。

どうしていいかわからない私は、じっと息をひそめてその次を待つ。

「お前さ」

眉をひそめた彼がその形のいい口を開いた。

「少しは拒めよ」

その瞬間彼が私の体から離れ、一気に視界が明るくなると同時にソファーの軋む音が寂し気に響く。

彼は少し乱れた前髪をくしゃくしゃとすると、天井を見上げた。

「藤 都」

あ、また名前呼ばれた。

私はホッとするのと、少し寂しい気持ちを抱えたまま起き上がる。

「そこまでして俺の記事がほしいのか?」

そういう訳でもなかったんだけれど、そんなこと正直にも言えるはずもなく。

「今俺が迫ったのは、ここに来たってことはそういうリスクもはらんでるってことをお前にわからせるためにしたことだ」

「……」

「俺がお前みたいなガキを本気で相手にするわけがないだろう?」

妙にイライラしている彼は立ち上がると、そのままキッチンに水を汲みに行った。

そっか。

そうだよね。私のこのリスク管理のなさを身をもって教えてくれただけだ。

私みたいな子供、冗談にせよ相手にするわけがない。

それなのに、そのリスクすらリスクと感じてない私は大馬鹿。

なんだかそんな自分がみじめで歯がゆくて胸の奥がきゅーっと締め付けられた。