「ちなみに」

私から顔を背けたまま突然口を開いたもんだから、体がビクンと反応する。

「お前は俺に取材したいと言っていたが、どんな内容なんだ。念のため聞いておく」

ひゃ~。これってようやく前向きに検討してくれてるってことだよね?

ここまで着いてきたかいがあったってもんだわ!

思わずはしゃぎそうになる気持ちをぐっと堪えて、彼の方に体を向ける。

「私たちは、がんばって働く女性向けの雑誌を作っています。中堅出版社ながら割と売り上げもよかったんですが、最近は注目記事がマンネリ化してしまって……そこで毎号掲載されている【トップからの女性社員へのエール】という特集記事になかなか表舞台に出ることのなかった錦小路社長に是非出て頂きたいと思っているんです!」

「もう少し包み隠して言えばいいのに」

「え?」

「いや、いい。要するに俺の記事は働く女性へのエールを送ればいいのか?」

「仕事をする上で何が一番大切か、今まで社長が仕事人生の中で得た自分を大きく揺るがした出来事なんかを踏まえて、最終的に女性社員へのエールにつなげて頂けたらと思っています。別にエールをメインにしなくても大丈夫です」

なんとなく、女性へのエールなんて苦手そうな勝手なイメージを持っていた私は敢えてそう伝える。

「要は、マスコミ嫌いの俺が出ることで、注目を集めて売り上げをアップしたいということだな」

ようやくこちらに視線を向けた彼の口元はうっすらと笑っているようにも見えるが目は笑っていなかった。

でも、売り上げをアップしたいというのは、正直事実だ。

私たちが存続する上で今一番重要なことなわけで、ここで違いますとは言えない。