9.恋愛のリスク

玄関の扉がバタンと閉まる音がした。

彼を怒らせてしまったんじゃないかと、ソファーでどんよりとした気持ちで座っていた私はすぐさまその音に反応して立ち上がる。

リビングに入ってくるなり、彼は少し驚いた様子で言った。

「なんだ、まだ起きていたのか」

「はい、やっぱり眠れそうもないので」

「そうか……」

ダイニングの椅子に座ろうとした彼に思わず声をかける。

「どうぞソファーをお使い下さい。その方がゆっくりできると思いますし」

「ん?やけに気が利くな」

「あの、さっきは偉そうなことばかり言ってしまってすみません」

ソファーに腰を下ろした彼に頭を下げる。

彼は口元を緩めると「お前も座ったら?」と言って自分の横を指さした。

なんとなくあまり近づくとまた顔が熱くなりそうだったけれど、せっかく言ってくれてるのに無下に断る理由もない。

「はい、では」

と一礼して彼の横に腰を下ろした。

「さっきから、その一礼といいかたっくるしいからやめてくれ」

ソファーのひじ掛けに肩ひじをついたまま彼がちらっと視線を向ける。

「思い出したかのように作った動作は一緒にいて疲れる」

「すみません」

別に作ってるわけじゃないけれど、体や言葉が固くなってしまう。

今更自分をよく見せようとしても彼には全てお見通しなことは十分わかっていたんだけれど。

「外で何をされてたんですか?」

「別に」

彼はぷいと私から顔を背けると額に手をやり目をつむる。

聞いちゃいけなかったかな。

彼のツボはどうもよくわからない。私の言動が全てよく思われていないのは確かだ。