「錦小路っ!」

そう叫んだ部長の顔は今でも忘れられない。

目は真っ赤で、俺が初めてみる厳しい表情だった。

思い上がっていたんだ。部長、そして、この営業部を俺が守るんだと。

人を信じることにこれほどリスクがあるなんて、その時まで知らなかった。

利益のためなら、平気で裏切る奴がいるってこと。

想像通り山科課長が自分の顔を立てるためにSビールの上層部に俺の行動をつまびらかにしたらしいと、その後しばらくして後輩たちが調べてくれた。

しかし、俺の衝動的行動が守るべき人たちを傷つけることになったわけで、今更山科課長のことはどうでもいい。

退職届を提出した俺は真っ先に渡辺に会いにいった。

せっかく決意をしてくれた彼にどう伝えればいいのか。

せめて今の地ビール会社を手放さないでいてくれと願いながら。

渡辺は俺の顔を見るなり、「礼くん!大丈夫か?」と血相を変えて駆け寄ってきた。

それは俺のセリフだろと思いながら、彼の様子がおかしいことに気づく。

まさか、もう知ってるのか?

「なんで会社辞めたんだ。辞めなくたってどうにかなっただろう?」

彼は心配そうな顔で俺の肩を掴んで揺らす。

やっぱりもう耳に入っていたか。

どこまで知っているのかわからないが、すまない気持ちで深く頭を下げた。