俺は部長と共に頭を下げると、声を殺して言った。

「……友人をSビールに売るような真似はできません」

「おいっ!」

稲葉部長は、頭を下げたまま俺の反旗を翻した言葉を抑え込もうとする。

でも、もうこれ以上は無理だった。

二者択一だなんて、こんな理不尽な二者があってたまるか。

俺は覚悟を決めた。

「では錦小路くんは、マスコミに弊社の不正を撒く方を選ぶというんだね?」

マスコミというのは、こんなくだらないネタですら大きく報道し、一つの会社を窮地に追いやる力を持っている。

もちろんそんなネタくらいでうちの会社がなくなったりはしないが、やはりその打撃はしばらく経営に響くだろう。

俺がそんな決済を取れる立場ではないこともよく理解していた。

社長がふいに椅子から立ち上がり俺を見据えた。

「私は君に二者択一を迫りたい。一つは、稲葉部長と海外営業部から籍をはずし地方の子会社に異動する。もう一つは、今回の責任をとって君一人が会社を去るということだ」

「社長、待って下さい!すべては私に監督責任がありますので、錦小路の退職だけは!」

部長が必死な形相で社長に懇願している。

俺は妙に冷静な気持ちでその光景を見ていた。

この二者なら一つしか選ぶ選択肢はない。

これ以上、部長にも営業部にもそして渡辺にも迷惑をかけたくはなかった。

「このことは部長は全く関係はなく、私一人で勝手に動いて招いたミスです。会社に迷惑かけた責任を負って退職します」

社長の目をまっすぐに見つめ、はっきりと答えた。