「錦小路くん、君はこの企画を他社に漏らした心当たりがあるかい?ないとは言わせないよ」

「は?」

俺が相談していたのは信頼しているはずのSビールの山科課長だけだ。

それがまさか他社に漏らしたということにつながるのか?

上層部たちの厳しい目が俺の体中に突き刺さっていた。

まさか……山科課長が裏切った?

「実はね、Sビールから圧力がかかっている。Sビールはベルギーでも売り上げナンバーワンを誇っている実力会社だ。日本のクラフトビールを現地で作り販売するのであれば、まずはSビールに話を通してからにすべきだった」

「それは……」

狼狽えることしかできない俺は、必死に解決策を見つけようと頭をフル回転させるもいい言葉が全く浮かんではこない。

「申し訳ありません!私がいながら、まず社長にこの企画をお話するまでは他社に漏れないよう気を付けるべきでした。私の不徳の致すところです!」

何も悪くない稲葉部長が深く頭を下げ謝っている。

副社長が頭を下げ続ける部長を厳しい目でにらみながら続けた。

「Sビールは私達に二者択一を迫っている。一つは、この企画を進めてもいいが、超過労働を強いられ辞めた元従業員から得た前社長の経費私的流用についての暴露ネタをマスコミにぶちまけるということ。もう一つは、その企画をまるごとSビールに譲ることで何事もなくこの場を収めるというこの二者だ」

それはないだろう?

元従業員の暴露ネタなんてこっちは全く関係のない話だ。

それ以上に、渡辺と約束したベルギー進出をSビールに譲り渡せだって?

俺の友人をそんな会社の都合で振り回すなんてことはできない。あいつは俺だからこそ一緒にやろうと言ってくれたんだ。

それなのに今更Sビールと組めだなんて。